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耳ぬき不良は治る!
第1回 耳ぬきってなに?? (文・三保 仁)

耳ぬき不良は治る!

三保クリニック 三保耳鼻咽喉科 院長
三保 仁先生

潜水歴32年、潜水本数約3,000本、講習実績200人以上のPADIマスターインストラクター。最近ではテクニカルダイビングを専門とし、トライミックスでの水深100m超え潜水、リブリーザーなども行なうが、もっぱらサイドマウントでのケーブダイビングを専門とする。これまでに診察したダイバーは7,000人以上。耳ぬき治療には定評がある。ダイバーおよび一般医師へ潜水医学を広報・普及させるために、各種学会、医学専門誌、ダイビング雑誌など多方面での講演や執筆活動に努めている。横浜の大倉山で開業中。「三保クリニック」で検索。

読者の方の中には、初心者からベテランまでいろいろなレベルのダイバーがいると思いますが、当院を受診される方の約70%が100本未満の初級〜中級ダイバーです。中には、「耳ぬき」ということがどういうことなのか、まったく理解しておらずに潜水をしてトラブルを起こす方も珍しくありません。もちろん、1,000本越えのベテランもおります。これについては、ダイビング講習を行ったダイビングインストラクターの教え方によって理解度が大きく異なることもありますし、ちゃんと教わったけれど理解できていないという方もいます。
今回は、耳ぬきに関する詳細を、6回の連載に分けてお話しします。第1回は、耳ぬきの必要性、種類、耳ぬき不良の危険性と定義、トラブルの統計などをお話しします。
※月刊『マリンダイビング』2016年11月号に掲載された記事です。

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耳ぬきとは?

人体には中に空気が入っている臓器、いわゆる中空臓器と呼ばれるものがいくつかあります。具体的には、中耳腔、副鼻腔、消化管、肺と気管支があります。気圧が変わると、中空臓器の中の空気が密閉されている空間の場合、気圧の変化に応じて膨張したり収縮したりします。水面から水中へ潜降すると周囲の圧力は高くなってゆき、気体はどんどん収縮していきます。
消化管である胃腸のように伸縮性に富んだ臓器は、臓器の壁が膨張したり収縮したりするので、腸のヘルニアという病気がない限り何ら問題が起きません。肺や気管支などの呼吸器は、レギュレーターを通じてタンクの中の空気やナイトロックスを呼吸しているために、密閉された空洞ではなくなり、肺の病気がない限り、あるいは呼吸を止めなければ障害は起きません。
副鼻腔も自然孔という小さい穴で鼻腔内と交通がついているので、副鼻腔炎や重症のアレルギー性鼻炎などの鼻疾患で自然孔が閉鎖していない限り、密閉された空洞ではなくなり、何もしなくても障害が起きません。

さて、問題となるのが中耳腔です。図1のごとく、中耳腔は上咽頭という鼻よりも奥の空間から耳管を通じてつながっていますが、耳管開口部は普段はぺたんこにつぶれて閉じているため、中耳腔は密閉された状態です。さらには中耳腔の周囲は骨に囲まれていて伸縮ができないため、耳管を開いて上咽頭と換気をしないと、図2のように中耳腔内が陰圧になって鼓膜が内側にへこんでしまいます。耳管を開いて上咽頭と中耳腔を交通させ、中耳腔に陰圧がかからないようにすることを「圧平衡」といい、意図的に耳管を開く動作を「耳ぬき」というのです。

イラスト/鈴木伸

中耳腔圧平衡が不完全、またはまったくできないことを「耳ぬき不良」といいます。
耳ぬき不良によって中耳腔が陰圧になると、鼓膜や中耳腔が内出血したり、鼓膜が破れたり、最悪の場合には内耳の蝸牛という所にある内耳窓(正円窓と卵円窓)にヒビが入って中の外リンパ液が漏れ出す、外リンパ瘻という病気になってしまうことがあります。こうなってしまうと、生涯ダイビングはしないほうが望ましい状態になってしまうのです。
これら耳ぬき不良によって生じる耳の障害を、中耳や内耳の気圧外傷と呼びます。気圧外傷の種類や症状などについては、この後の連載3と4で詳細に解説します。

耳ぬき不良による危険性

耳ぬき不良は、「耳の痛み」などというレベルでは済まないこともあるのです。耳を壊して一生潜れなくなることも問題ですが、稀ながら耳ぬき不良によって瀕死、あるいは死亡事故が起きています。
海上保安庁が公表して、DAN JAPANがそれらをまとめた事故例報告を下記に示します。これらの多くはパニックに陥ってしまった結果、溺れたり、急浮上によって二次的な障害を起こしてしまうことが原因です。耳ぬき不良による事故の原因を、フローチャートで図3にまとめました。

【 耳ぬき不良による事故例 】

(30代女性)事故者はボートエントリーにより2本目のダイビングを開始、耳ぬきができなかったがそのまま水深30mまで潜降したところ、パニックを起こしてレギュレーターを自ら外し溺水した。仲間によりボートに引き上げられ救急車により病院に搬送され、その後自発呼吸するも意識は戻らず入院、後日死亡が確認された。死因は、肺水腫、低酸素症、脳ヘルニア等複合的な原因による。

(平成21年 潜水事故の分析 DAN JAPANより引用)

耳ぬきの種類

では、一体耳ぬきにはどのような種類があるのでしょうか。一般的にダイバーが用いているいろいろな方法をご紹介します。
大きく分けると、鼻をつまむものとつままないものに分けられます。人によってどの耳ぬき方法が適しているのかが異なるので、いろいろな方法を試してみても完全な耳ぬきができなければ、専門医で耳ぬきの治療や訓練をしたほうが良いことになります。

<鼻をつまむ方法>
バルサルバ法

鼻をつまんで、声門(声帯)を開いた状態で、肺の空気を鼻から息を吐き出そうとする動作を行う方法で、肺からの圧力によって耳管を開放させる方法です。ダイバーが汎用する耳ぬきのひとつで、唯一、確実に治療や訓練が可能な耳ぬき方法です。適切なバルサルバ法であれば、ビギナーに最適な方法と言えます。

<鼻をつまむ方法>
フレンツェル法

鼻をつまんで声門を閉じ、舌根(舌の奥)を挙上する動作を行うことによって耳管へ空気を送り込む方法です。バルサルバ法を習得したダイバーは、経験を積むに従って自然に習得することができるエキスパート用の耳ぬき方法で、耳への負担が少なく、最も安全かつ理想的な耳ぬき方法です。

<鼻をつまむ方法>
マウスフル

鼻をつまんで肺から口の中に空気を送り込み、頬の筋肉を使って空気を耳管に押し込む方法です。アプネア競技のベテランフリーダイバーがよく用いる、難易度が高い耳ぬき方法ですが、少々強引に耳に空気を送り込んでしまうことがあり、うっかりすると耳に障害が起きてしまうことがあります。スキンダイビングで息を止め、一気に深度を下げて潜る競技には有利なところが多いのですが、呼吸をしている一般のスクーバダイバーにはお勧めしにくいところがあります。

<鼻をつまむ方法>
トゥインビー法

鼻をつまんだまま嚥下動作を行う方法で、嚥下法に限りなく近い耳ぬき方法です。多少は嚥下法よりも有利な点がありますが、逆に言えば、嚥下法ができる人でなければ、この方法もよく抜けないことになります。嚥下動作を行うと、口蓋筋群の一つである口蓋帆帳筋を収縮させて耳管を開放させるのと同時に、軟口蓋(のどちんこの周囲)が跳ね上がる動きが起き、その結果鼻孔から少量流出しようとする空気を、鼻をつまむことによって耳管へ送り出す方法です。

<鼻をつままない方法>
嚥下法

嚥下(飲み込み)の動作によって口蓋帆帳筋を収縮させ、耳管を開放する方法です。ダイバーの耳ぬきで、バルサルバ法の次に汎用されています。個人的な体質の違いで、嚥下で抜ける人と抜けない人がいます。特殊な訓練によってできるようになる場合がありますが、その成果は不確実です。ダイビングは湿度がほぼ0%の乾燥した空気をタンクから呼吸しているので、口やのどが渇くために、慣れないと頻繁な嚥下動作ができないことが原因で、この方法が向かない人もいます。

<鼻をつままない方法>
口蓋筋群を動かす

あくびをかみ殺す動作、顎を前後や左右に動かす、歯を食いしばるなど口蓋筋群を動かすことによって、口蓋筋群の一つである口蓋帆帳筋も収縮させ、嚥下を行わないで耳管を開放するという方法です。頻繁に嚥下動作を行わないためにやりやすいのですが、一部の人にしかできない方法で、これもやはり持って生まれた体質といえ、訓練ができません。

<鼻をつままない方法>
オートマチック

何の動作もせずに深度を下げても、自然に中耳腔への圧平衡ができる状態です。持って生まれた究極の特異体質といえます。やはり治療や訓練は不可です。

耳ぬき不良の定義

自分が耳ぬき不良であることを自覚しないで、耳を痛めてしまって来院される方がたくさんいます。耳ぬきは、完全に抜けきっている状態が医学的に「耳ぬきができている」のであって、それ以外のすべてを「耳ぬき不良」と私は定義しています。まったく抜けていないわけではない、抜けづらいが抜けている、時間をかければ抜けるという状態は最も危険な耳ぬき不良で、この後の連載でお話しする中耳気圧外傷や外リンパ瘻のハイリスクです。どれくらい自分の耳が危険な状態にさらされているかを理解しづらい、一番やっかいで危険な状態といえます。まったく抜けない人は水深2mにも潜れないので、潜水を中止せざるをえないために耳を壊すことはありません。完全によく抜けている人も当然痛めることはありません。痛めてしまった人のほとんどが、これらの「抜けづらいけれど抜けている」人たちなのです。

耳ぬき不良の統計

一般的な潜水医学の統計では、全潜水障害の約80%が耳ぬきに関連するものという結果がたくさん報告されています。当院は耳鼻科なので、耳ぬきに関わるトラブルを起こしたダイバーが当然たくさん集まるのですが、耳ぬき不良で当院を受診するダイバーは年間約400~500人、過去15年間では7,000人以上に達し、図4に示すように、そのうちの実に80.1が耳ぬき不良から中耳気圧外傷という中耳のケガを起こして来院され、さらには8.4がすでに耳を壊して外リンパ瘻になっており、その後のダイビングは望ましくない状態になってしまってから受診しているのが事実です。これらを合計すると、実に88.5が耳ぬき不良に関わる障害といえます。
これらの耳ぬきに関する潜水障害のほとんどが、前述の「抜けづらいけれど抜けている」「時間をかければ抜ける」というような方ばかりで、まったく抜けない人はほんの一部なのです。潜水直後に、耳に水が入っているような耳のつまり感が数日間起きるのは中耳気圧外傷が起きている証拠で、完全には抜けきっていないのが原因です。この状態でごまかしごまかし潜っていると、一生潜れなくなってしまうこともあるのです。中には、自分はオートマチックでよく抜けると言いつつ耳を痛めてくるダイバーが時々いるのですが、これも完全には抜けていない結果です。耳管機能検査をしてみて、あなたは耳ぬき不良ですとお伝えすると、びっくりされることがあります。耳ぬき不良の自覚がまったくないため、どういうときに中止すべきかの判断が難しい一面もあります。
しかし、その程度でも耳を痛めるので、その人に合った耳ぬき方法を探すことは重要です。耳ぬき不良の自覚が少しでもある場合には、今とは違ういろいろな耳ぬき方法を今一度試してみて、それでも解決しなければ、耳を壊す前に潜水医学に詳しい耳鼻科医の受診をお勧めします。

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