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耳ぬき不良は治る!
第3回 耳ぬき不良による障害
その1 中耳気圧外傷 (文・三保 仁)

耳ぬき不良は治る!

耳ぬき不良が起きるとどのような障害が起きてしまうのか。
連載第3回では、中耳の障害である中耳気圧外傷についてお話しします。特に外リンパ瘻は重症の内耳の合併症で、耳を壊してしまってその後のダイバー生命を失いかねない重大な事態です。その前段階が今回お話しする中耳気圧外傷なので、外リンパ瘻になってしまうことがないように学んでおきましょう。
※月刊『マリンダイビング』2017年1月号に掲載された記事です。

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中耳気圧外傷とは?

耳ぬき不良が起きると、鼓膜の内側の中耳腔が陰圧になり鼓膜がへこんできます。その時間が長く続くと、鼓膜の表面に充血や内出血が起こり、さらにひどくなると、中耳腔内の周囲の粘膜から組織液や血液がにじみ出てきます。このように中耳腔に液体が溜まってくることによって陰圧が弱まり、耳の痛みが軽減してきます。この状態の鼓膜を耳の穴から観察すると、鼓膜が赤く出血して、血液が中耳腔に溜まっているのが鼓膜を透かして見ることができます。

この状態を、中耳気圧外傷と呼びます。

その重症度を分類したEdmonds分類をに示します。そして、実際の鼓膜写真も図1にお示しします。

GradeⅡ以上では、音を伝える耳小骨の一つであるつち骨周囲に出血を起こすので、潜水医学に詳しい耳鼻科医はこれを見てすぐに中耳気圧外傷と急性中耳炎との区別ができます。

GradeⅣでは中耳腔に血液が溜まって、どす黒く鼓膜が見えます。

最重症では、鼓膜にピンホールがあくGradeⅤになります。

潜水医学を知らない耳鼻科医のほとんどが、これらの状態を急性中耳炎と勘違いしてしまい、不必要な抗生物質などの薬を処方したり、鼓膜を切って貯留液を吸い出したり、耳管通気治療を行なって中耳に圧力をかけ、貯留液を吹き飛ばそうとしてさらに中耳気圧外傷を悪化させたり、通気によって外リンパ瘻を誘発させたりしてしまいます。

中耳気圧外傷は、次回お話しする外リンパ瘻を合併してさえいなければ、放置すれば治るのです。転んで膝にアザができても、骨折したり靱帯を切ったりしなければ、放置すれば治るのと同じです。化膿してない膝のアザに抗生物質を使っても意味がないし、わざわざ皮膚を切って内出血の血液を絞り出す必要もないですし、アザに指でぐりぐりと圧力をかければアザは悪化します。中耳気圧外傷という病名があることすら知らないのですから仕方ないことですが、時には一般用語として「潜水性中耳炎」と呼ぶこともあります。ですが、これは外傷であって炎症ではないので、不適切な用語です。

潜水後に本当に急性中耳炎になることはかなり珍しいことです。急性中耳炎の場合には、水中でではなく潜水後数時間してからズキズキと耳が痛みます。潜水後に痛みがないのに中耳炎と診断されたら、すべての治療を断ってすぐに潜水医学に詳しい耳鼻科を受診しましょう。

表. 中耳気圧外傷の重症度分類
(Edmonds分類)

Grade 0 症状のみで鼓膜所見が正常なもの
Grade Ⅰ 鼓膜の充血
Grade Ⅱ 鼓膜の充血と軽度出血
Grade Ⅲ 鼓膜の高度出血
Grade Ⅳ 鼓室内出血
Grade Ⅴ 鼓膜穿孔

(図1)中耳気圧外傷の鼓膜所見

正常またはGrade0

GradeⅡ鼓膜の充血と軽度出血

GradeⅣ鼓室内出血

GradeⅤ鼓膜穿孔

中耳気圧外傷の症状

水中で中耳の圧平衡ができなくて耳が痛く感じるのが耳ぬき不良ですが、鼓膜の内出血や中耳腔に血液が貯留すると、耳に水が入った感覚が治らない状態になります。綿棒やティッシュのこよりを耳の中に入れても、水が抜けないような症状です。

実際に、中耳気圧外傷であるにもかかわらず、耳に入った水が抜けないといって受診する人もいます。鼓膜の内側に貯留液が溜まっている場合と、耳の穴に水が入った感覚はまったく同じですから、これらの区別は人間には不可能です。

問題なのは、耳ぬきはできるけれど、耳に痛みや圧迫感を感じてからやっと耳ぬきをしている人も同様に中耳気圧外傷になりますし、そのうちにだんだん耳管が腫れてきて抜けなくなってしまいます。

各指導団体のダイビングのテキストには、耳ぬきは「耳に不快感を覚える前から定期的に頻繁に」と記載されています。不快感とは、痛いことはもちろんですが、耳に圧迫感を覚えてから耳ぬきをしていると、徐々に中耳気圧外傷になってしまうのです。耳の圧迫感も不快感に含まれるのです。「耳に圧迫感を覚える前に」耳ぬきをする、と心得てください。

軽症の耳ぬき不良は、一日に何本も潜っていくうちに、あるいは連日のダイビングを重ねていくうちに、だんだん抜けなくなってゆきます。完璧な耳ぬきができる人は、一日何本潜っても、何連日潜っても、耳はよく抜け続け、だんだん悪くなることはないのです。

危険なサイン

上記のように、ダイビング後によく中耳炎と指摘されるとか、耳に水が入ったような耳のつまり感が数日から数週間続くが、そのうちに自然に治ってしまうとか、潜水後につばを飲むと耳にブチブチ、ガサガサ音がする、といった症状が典型的な中耳気圧外傷の症状であり、これはとても危険なサインです。

確かに、中耳気圧外傷だけであれば自然に治るのですが、これを繰り返していると将来、次号でお話しする外リンパ瘻、いわゆる「耳を壊してしまった状態」に陥る危険性が高いのです。そうなってはダイバー生命を失うことになりかねません。

耳ぬき不良は治るものです。きちんと耳ぬきの治療や訓練をしないと、繰り返し飲酒運転をすることと同じで、今までは大丈夫でもいつかは大事故につながりかねないというわけです。

耳ぬき不良による中耳気圧外傷を認めたら、まずは外リンパ瘻も一緒に合併していないかどうかを、聴力検査で調べます。他の音域に比べて、高いほうの音だけが特に低下しているような結果になると、外リンパ瘻を合併している可能性が高いのです。とても重症の外リンパ瘻では、水中で激しい回転性めまいを起こしてしまいパニックによって溺れたり、めまいや嘔吐を引き起こすので、嘔吐物がセカンドステージの排気弁に挟まり吸気時に海水を吸引することになって溺れたりなど、希ながら死亡事故につながることもあるのです。

外リンパ瘻は耳ぬき不良という引き金によって起こるので、耳ぬきを完全に治してしまえば予防できます。耳ぬき不良の治療の詳細については、第5回の連載でお話しします。

中耳気圧外傷に合併するその他の症状
「リバースブロック」

浮上に伴って周囲の気圧が下がってくると、鼓膜の内側の空気が膨張してきます。潜降時の耳ぬきとは違って、健康な状態では何もしなくても自然に耳管を通じて鼻の奥の上咽頭に空気が逃げていきます。鼓膜は空気の膨張に伴って多少外側へ膨らみますが、耳の聞こえが少しこもる程度の感覚しかありません。

ところが、リバースブロックは、耳ぬき不良で耳管が腫れて狭くなっていて、浮上時に膨張する中耳腔の空気が、スムーズにのどのほうに戻れなくなってしまう状態です。

症状としては、浮上をしているときに膨張する空気が腫れて狭くなっている耳管を通過するときにキュルキュルと音を立てたり、浮上するごとに耳に痛みを感じたり、膨張する空気が内耳窓(内耳にある薄い骨の膜状の部分)を圧迫して回転性のめまいが起きたりという症状が起きます。潜水の一般用語として、「浮き耳」とか「バーティゴ」と呼ばれることもあります。

エグジットしてしまえばほとんどの場合には症状が消失してしまいますが、時には10分間ぐらい耳の聞こえのこもり感や耳のつまり感が続く場合があります。しかし、鼓膜の内側の膨張した空気が抜けてしまうとすぐに治ります。耳ぬき不良で起きる中耳気圧外傷と違って、何日も続く耳のつまり感ではありません。

キスマークは陰圧によって皮膚が内出血してアザになりますが、皮膚には強度があるので膨隆することなく平らに内出血するだけです。しかし中耳腔は粘膜ですから、陰圧による内出血によって一気に腫れ上がってしまい、同様に耳管の粘膜も腫れてしまいます。そうすると、さらに耳ぬき不良がひどくなります。そしてその結果、浮上時には膨張する中耳腔の空気が耳管を通してのどのほうへ戻れなくなり、リバースブロックを起こしてしまうことになります。

人によっては、軽度の耳ぬき不良では耳の痛みをあまり伴わないために、リバースブロックだけを強く感じて受診する方もいます。しかし、耳ぬきを完璧に治してしまえば、リバースブロックは完全に起きなくなります。要するに、リバースブロックの原因は、耳ぬき不良による中耳気圧外傷なのです。その証拠として、リバースブロックを主訴として受診するダイバーに、耳管機能検査を行なうと、ほぼ100%耳ぬき不良が検出されるのです。中には、自分が耳ぬき不良を起こしているということに全く気がついていなくて、リバースブロックだけを感じているケースまであります。

鼻出血

耳ぬき不良の症状として、鼻血が出ることもよくあります。その原因はいくつかあります。

一つは、耳が抜けないために一生懸命鼻をつまみ、図2にあるように、鼻の入り口で血管が集まっているキーセルバッハという場所の血管が傷ついてしまいます。そして、一生懸命息むので、頭に血が上って出血しやすくなるのです。

もう一つは、中耳気圧外傷で鼓膜の内側に溜まった血液が、浮上中に空気が膨張するときに耳管を通して押し出される場合です。しかし、ダイビング後につばや痰に血が混じるという程度の症状の人が多い印象です。

いずれにせよ、無理なくスムーズに耳ぬきができるようになると、鼻出血もまた起きなくなります。それから、顔に合わないマスクを使用していると、鼻を上手につまんだり、鼻の穴を完全に塞ぐことができず、耳ぬき不良になることもあります。その場合にも、ぎゅうぎゅうと鼻をつまむので、よく鼻血になります。

以上のように、耳ぬき不良によって中耳気圧外傷、リバースブロック、鼻血を起こしますので、これらの症状がある方はすぐに潜水医学に詳しい耳鼻科医師を受診してください。

(図2)キーゼルバッハ部位

これからダイビングを始める人へ

初めて潜る場合、耳ぬき不良は潜ってみないとわからないものです。ほとんどの人は耳ぬきができるものですが、子どもの頃に繰り返し中耳炎をやっていた人、飛行機やエレベーターで耳が痛んだり、耳が塞がった状態になる人、過去の体験ダイビングや講習などで耳ぬき不良があった人たちは、耳ぬき不良を起こす確率が高いです。これらに該当する場合には、潜水前に潜水医学に詳しい耳鼻科を受診しましょう。

三保クリニック 三保耳鼻咽喉科 院長
三保 仁先生

潜水歴32年、潜水本数約3,000本、講習実績200人以上のPADIマスターインストラクター。最近ではテクニカルダイビングを専門とし、トライミックスでの水深100m超え潜水、リブリーザーなども行なうが、もっぱらサイドマウントでのケーブダイビングを専門とする。これまでに診察したダイバーは7,000人以上。耳ぬき治療には定評がある。ダイバーおよび一般医師へ潜水医学を広報・普及させるために、各種学会、医学専門誌、ダイビング雑誌など多方面での講演や執筆活動に努めている。横浜の大倉山で開業中。「三保クリニック」で検索。

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