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神子元島で安全に楽しくハンマーヘッドシャークをウオッチングするためのマナーとルール

神子元島で安全に楽しくハンマーヘッドシャークをウオッチングするためのマナーとルール

神子元島(みこもとじま)といえば今や海外のダイバーの間でも注目の的になっているハンマーヘッドシャークの群れがウオッチングできる人気ダイビングエリアです。シーズン中はダイバーが大勢集まって海中はダイバーが吐く泡が視界に広がる!なんてこともあります。ダイバーが多くて自分のグループがわからなくなることもあるそうです。安全にみんなが楽しくハンマーウオッチングを楽しむために、38年前から神子元島でハンマーウオッチングのガイドをしている《ドルフィンウェーブ》代表の渡辺 守さんと現地老舗ダイビングサービス《海遊社(290)》のガイド、高倉 篤さんに、お話を伺いました。

※2023年9月現在の情報です。

神子元島とは?

撮影/小川淳平(カレントブルーダイビングセンター)

神子元島は伊豆半島南端、弓ヶ浜の沖約8kmに浮かぶ岩でできた無人島です。38年前(1985年)にダイビングスポットとしてスタート。その当時からハンマーヘッドシャーク(主にアカシュモクザメ)が通ることが発見され、そのウオッチング方法が開発されてきたのです。
ダイビングボートは南伊豆町の弓ヶ浜の港、もしくは小稲湾から計4隻が出ています。港からの所要時間は約15分。

神子元島のダイビングスタイル

神子元島の名物となっているハンマーヘッドシャークの大群

神子元島の名物となっているハンマーヘッドシャークの大群 Mikomoto Is. Shizuoka Pref.
写真/高倉篤(海遊社)

神子元島はドリフトダイビングオンリーです。1ダイブしたら港に戻るスタイルで、ゲストが多い時はピストン式に出港することもあります。
1ダイブから申し込めますが、多くの人が一日3ダイブしているようです。ゲスト数やその日の出港回数にもよりますが、一日4ダイブできることもあるのだとか。
エントリーしたら潮に乗って泳ぎ(時には逆らうこともあるかもしれません)エグジットした水面でボートにピックアップしてもらうことになります。

ハンマーヘッドシャークが見やすい海

ハンマーヘッドシャークウオッチングをするためのダイビングボート。《海遊社》が所有する「290(ふくまる)」は中でも最大級

ハンマーヘッドシャークウオッチングをするためのダイビングボート。《海遊社》が所有する「290(ふくまる)」は中でも最大級
写真/高倉篤(海遊社)

根の上、水深13mぐらいでこれだけのハンマーリバーが近くで見られることも!

根の上、水深13mぐらいでこれだけのハンマーリバーが近くで見られることも!
写真/高倉篤(海遊社)

神子元島が何よりスゴイのは、東京など都心から日帰りで行けて、しかも車だけでなく電車でもアクセスできるのに、世界でも珍しいハンマーヘッドシャークの群れに年間を通して会えること。しかも群れというより、次から次へと湧き出るように出現。まさに“ハンマーリバー”です。
さらに近年は「カメ根」というダイビングスポットの一角に「Aポイント」と呼ばれるトップが水深13mの根があって、根に着底して、目の前を渦巻いたりリバーのように流れたりするハンマーヘッドシャークが見られることが。7~9月に特によく見られます。
世界的に見て、都会から近く、アクセスも良い、とても貴重なハンマーヘッドシャークウオッチング(以下、ハンマーウオッチングと略)が高確率でできるダイビング天国、サメ天国なのです。

今、ハンマーウオッチングのルール&マナーが問題に

神子元島では安全に潜るためのルールやマナーが守られてきたのですが、人気が高まるにつれそれを守らないダイバーが増えてきたようです。
ハンマーの群れが出た!と突っ込む人や、海中で交差するグループがいて、そこで自分のグループがわからなくなって、別のグループについていってしまう迷子ダイバーが増えているというのです。
「カメ根」と呼ばれるハンマーとの遭遇率が高いスポットの中でも特に「Aポイント」では着底して見るのですが、ハンマーが現れる出入り口に着底してしまって、ハンマーの出現を阻むダイバーたちもいるのだとか。
地元のダイビングショップではルールやマナーをつくっているのに、それが破られつつあるということは由々しき問題です。

ハンマーを見てもダッシュしてはいけない!(習性と生態)

次から次へと目の前にハンマーの大群がやってくる“ハンマーリバー”も夢じゃない

次から次へと目の前にハンマーの大群がやってくる“ハンマーリバー”も夢じゃない
写真/高倉篤(海遊社)

「そもそもハンマーヘッドというのは、向こうから近づいてきてくれるもの。群れに突っ込もうとしたら、危険を察知したハンマーは逃げてしまいます」と語るのは渡辺さん。
「ハンマーの群れが出たらダッシュして近づくという“誤解”がはびこっている気がします」と高倉さんも言います。
「ハンマーヘッドはT字の部分に生物が筋肉を動かすときに発する微弱な電流を感知する“ロレンチーニ器官”というのを持っていて、それを使って捕食をしたりしています。ダイバーがダッシュしたりしたら筋肉が動きますので、ハンマーは電流を感知して餌ではなく“敵が来る”と感じている可能性があります。だから逃げる。ダッシュして近づこうとすればするほど逃げられてしまうんです。ダッシュして追いかけるのはダメ」と渡辺さん。
「最近はGoProの棒を長く伸ばしてアップで近寄って撮ろうとする人を多く見かけますが、過剰な接近により、ハンマーが驚いて逃げるシーンを目撃することが増えて来ました。これもハンマーにとっては脅威ですから、NGですね」と高倉さん。

大事なことはハンマーが警戒心を持たないようにすること。
「ハンマーの警戒心を解くことこそガイドの腕の見せどころだと思うんです。『Aポイント』は着底してダイバーが動かないようにして見るのに最高の場所。でも、ダイバーが吐いた泡がハンマーたちのところに行ってしまうのもダメ。ハンマーは泡を嫌いますから、それで見られるはずのハンマーが逃げてしまうことだってあります。
着底しているところにハンマーたちが入ってきてくれることが理想です。実際『Aポイント』ではそれができる魅力的なポイントです。ガイドとして、ダイバーが安全に潜れて、さらにハンマーが近づいてきてくれるのは最高だと思いませんか?」と二人は話します。

神子元島でハンマーウオッチングをするためのルールを知ろう

神子元島のハンマーウオッチングルールは現在、どうなっているのでしょう?《海遊社》の高倉篤さんによると……
・1ガイドにゲスト6人まで
・フロートとホイッスルなどの鳴り物を各自が携行すること(義務付けられています)
・大きなフラッグをグループのガイドが携行すること
・ ダイビング経験本数は30本以上(《海遊社》では50本以上にしています)
・潜水時間は最大40分ですが、30分までにガイドが海中からフロートを上げること(高倉さんは30分までギリギリ潜らず、だいたい25~26分でフロートを上げて浮上準備に入ります。潮の流れがとても速い場合は20分ぐらいで上げること)
・エントリーしてから40分で浮上しないと、ボートのキャプテンがすぐに捜索にかかる
・エアは残圧が70barで浮上開始、安全停止の時に残圧50barは残しておく
・万が一はぐれた場合は、神子元島では水中で待つことはせず、安全停止もせず、浮上速度を守りながら浮上。水面で再集合するようにする。その際、浮力確保は確実に

引率するインストラクターの方はもちろん、一般ダイバーの方も、気にとめておくようにしたいですね。

ダイバーに望むウオッチングマナー

待っていればこんなに近い写真が撮れることだってあるのです

待っていればこんなに近い写真が撮れることだってあるのです
写真/高倉篤(海遊社)

「神子元島では、黒潮の蛇行が始まって以来、ハンマーは今や年間見られることがわかってきました。海がいい環境をつくってくれているという感じです。それを群れに突っ込んで、GoPro棒を突っ込んで、群れを逃がす行動はいかがなものでしょうか。 ひとりでも多くチームみんながハンマーを長く見られる環境作りをしていきたい」と髙倉さんは言います。そして、こう続けました。
「ただGoPro棒が悪いのではなくて、ダイバーには泳げる人、泳げない人がいて、泳げない人にとってはとても便利なものだと思うんですね。現に自分も渡辺さんも使っています。泳げるからといってむやみにGoPro棒を群れに突っ込んだりハンマーの口先に持って行ったりするような、ハンマーに驚異を与えることが問題だと思います」

ダイバーのマナーとして守りたいことは、ブリーフィングでも紹介されますが、下記のとおりです。
・万が一群れが見えてもダッシュして群れに突っ込まないこと
・ガイドより深く潜らないこと
・「Aポイント」に潜る場合は、根につかまったら無駄に動かないように
・ガイドと同じ行動をとること(コース取り。水深はやや上を泳ぐ)
また、フォト派は
・一眼カメラなどはファインダーを見ながら行動すると周りが見えなくなってロストしたりする危険もありますので、デジタルビューイングを使って周りを見るようにして撮ってください

渡辺さんもゲストのダイバーがGoProを持っていたら「ガイドより前にGoPro棒を伸ばしてくる場合は、泡をよけるためだけ。それより前に行っちゃダメです」と説明しているそうです。
もちろん、ほかのダイバーが撮影しているところの前を横切るのはマナー違反。必ず後ろを通るようにしましょう。

また、浮上も神子元島の場合は注意が必要です。
「浮上する時はBCから空気を抜いて浮上するといわれていますが、神子元島ではBCの空気を抜きすぎると、カレントの関係でなかなかフィンキックだけでは浮上しにくい場合があります。BCコントロールも必要になってくるのです。水深10mまでは浮上速度が速くなったり、逆にダウンカレントで沈んでいったりしないように、こうしたBCの給排気のコントロールをしっかりやってほしい」と渡辺さん。
もちろん、水深が浅いところは急浮上の可能性があるので、水深10mより浅いところに来たら排気して水深5mの位置で安全停止をすることが大切です。
浮上後は必ずBCに空気を入れて、水面でボートが来るのをガイドから離れないようにして待ちましょう。

グループリーダー(ショップのインストラクター)にお願いしたいこと

特にグループリーダー(ショップのインストラクター)の方にも注意して欲しいことがあるとのことです。
《海遊社》では必ずショップのインストラクターの方にも事前に神子元島を視察として潜ってもらい、神子元の海が初めての方は受け付けていないと言います。事前の視察ダイビングでスキルが伴っていない方はツアーで来ることをお断りするほど厳しい判断がくだされることもあるとか。
ショップのインストラクターの方にお願いしたいことは……
・事前のブリーフィングでルールとマナーをきちんと話をしていただく
・水中ではグループ同士が交差しないという基本的なルールは必ず守る
・ハンマーの群れが出ても突っ込まない。突っ込むゲストを制止する
・ハンマーに自分たちが吐いた泡がかからないような位置取りをする
ゲストダイバーがルールやマナーを守るためにはショップのインストラクターの腕が重要です。
世界的に見てもとても貴重なハンマーヘッドシャークの群れが年間見られる神子元島の海。ハンマーも永遠に見られて、ダイバーの皆さまに安全に楽しんでいただくためにも、みんなでルールとマナーを守って素敵なダイビングライフを送りましょう!

今回ご協力いただいたのは

《ドルフィンウェーブ》代表・渡辺守さん(右)と《海遊社》のガイド、高倉篤さん(左)

《ドルフィンウェーブ》代表・渡辺守さん(右)と《海遊社》のガイド、高倉篤さん(左)

ドルフィンウェーブ/渡辺守さん

38年前に神子元島でダイビングができるようになった頃に、神子元の現地ダイビングサービスでインストラクター、ガイドして活躍。その後独立して、東伊豆の富戸に《ドルフィンウェーブ》を構える。富戸の海も案内しつつ神子元島にもツアーで今なお通っている、神子元島オープン当初の初代ガイド。

≫ドルフィンウェーブ

海遊社/高倉篤さん

弓ヶ浜の老舗ダイビングショップ《海遊社》で約12年、ガイドとして活躍中。神子元島の海はシーズンだけでなく年間潜っていて、安全に潜るためのたくさんのノウハウを身につけています。

≫海遊社

ライター/後藤 ゆかり(MDWデスク)