年間125万人が訪れるダイビング情報サイト

【連載コラム】もっと知りたいダイビング医学
第7回 
薬とダイビング(後編)

もっと知りたいダイビング医学

薬とダイビングの考え方や注意すべき点、ダイバーの潜水適性について、前編では服薬とダイビングの考え方について解説しました。後編では、より具体的な説明をしますので、自身に当てはまる項目を参考にしてください。
なお、潜水適性の話は多岐にわたるので、本稿では主に薬に関連した代表的な傷病(病気、ケガ)についてのみ触れます。ご興味のある方は文献1や英語で医師用ではありますが、Recreational Diving Medical Screening System のDiving Medical Guidance2)も参照してください。

文責/小島泰史(東京医科歯科大学高気圧治療部、東京海上日動メディカルサービス)

整形外科的傷病(骨・筋肉の傷病)

整形外科的な傷病がある場合の潜水適性判断では、以下の点に着目する必要があります。

  • ① 疼痛、機能障害はあるか:重い器材を背負って移動するなど、ダイビングが可能な身体状況か考慮する
  • ② 症状は診断の混乱要因とならないか:ダイビング後に関節痛、四肢しびれなどを伴う傷病が悪化した場合、傷病の悪化か減圧障害の発症か判断が困難となることがある
  • ③ ダイビングによる悪化の可能性:治療中の骨折、急性腰痛等

整形外科的傷病では、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)などの痛み止めが頻用されます。ロキソプロフェンもそのひとつですが、前編に記したように、高圧環境下での使用自体は特に問題ないようです。副作用としては、胃腸症状(消化管潰瘍他)が多く、肝障害、腎障害なども見られます。ダイビング上特に問題となりうる副作用としては、眠気、アスピリン喘息、出血傾向などがあります。易出血性により、内耳気圧損傷、脊髄型減圧症の症状が重篤化する可能性があるとの指摘もあります。

NSAIDs以外の痛み止めもあり、例えば、末梢性神経障害性の痛みに対してプレガバリン(商品名:リリカ)が使用されます。副作用としてめまい、意識消失、転倒があり、服用中は自転車などの運転や危険を伴う機械の操作を避けるよう注意喚起されているため、ダイビング時の服用には注意が必要です。高齢者では特に注意が必要です。

耳鼻咽喉科的問題

次に、耳抜き不良や、船酔いなどの薬です。

①耳抜き不良:

風邪等で耳抜き不良時のダイビングは避けるべきです。鼻づまりに効果がある薬剤として、血管収縮薬・充血緩和薬の塩酸プソイドエフェドリンがありますが、リバースブロックの危険性があるため、ダイビング時の耳抜き不良対策での使用は望ましくありません。

*コラム* 充血緩和剤の予防使用における議論
充血緩和薬を、圧外傷予防として用いるダイバーが一定数いるようです。ダイビング前のプソイドエフェドリン使用により初心者ダイバーの中耳圧外傷の頻度、重症度が減ったとの報告もあります3)
しかし、血管収縮による末梢血管抵抗増大は気泡形成を促進し減圧症のリスクを高めると考えられており4)、理論上は使用を控えた方が良いと思われます。
ただし、その理論は立証されておらず、Smerz RWは、充血緩和薬の使用に関連する減圧症発症リスクは小さく統計的に有意ではなかったと報告しています5)

②船酔い/花粉症などのアレルギー症状:

前編で述べたように、スコポラミン・パッチは比較的安全に思えますが、日本では未承認です。日本で市販される酔い止め薬の多くに、第一世代抗ヒスタミン薬が含まれています。副作用として鎮静(眠気)があり、添付文書には服薬後に乗り物/機械類の運転操作をしないよう記載されています。窒素酔いと、鎮静(眠気)との相加効果も問題となります。
ダイビングは車の運転に準ずる注意力が求められるため、一般的な船酔い対策(体調管理、エンジンから離れる、遠くを見る等)を優先し、可能であれば酔い止め薬を内服せずダイビングすることがより望ましいと考えます。

ただし、船酔い時にも注意力は低下します。このため、どちらがより危険か、は難しい問題です。英国のUK Diving Medicine Committee (UKDMC)は、ダイビング時に酔い止め薬を使用する場合、運転・ダイビングをしない環境でまずは色々試してみること(眠気の出ない酔い止め薬を探す;各個人で異なる)、初めてのダイビングは控えめ(浅い水深)にすること等を勧めています6)

なお、市販の酔い止め薬には、カフェイン等の様々な薬剤が配合されており、これらの薬剤の影響も懸念されます。よって、薬の選択については、市販薬ではなく耳鼻科医に相談することも勧められます。また、抗ヒスタミン薬は花粉症でも処方されますが、最近では第二世代(商品名:アレグラ、クラリチン等)が選択されることが多いです。第一世代と異なり眠気は少ないですが、個人差もあり、やはりダイビング前に一定期間の服用が必要です。

気管支喘息

かつて、喘息患者はダイビング中の圧外傷リスクがあり、潜水禁忌とされてきました。しかし、最近ではコントロール良好な場合は、リスクを説明したうえでダイビングを許可する傾向にあります。ただし、気管支拡張剤を使用している状況はコントロール良好とは評価されず、薬(気管支拡張剤)の使用イコール潜水適性が無い、となります7)

糖尿病

DAN Japanガイドラインでは、インシュリンや経口血糖降下剤で治療中の糖尿病は低血糖による意識消失を起こす可能性があり、危険性が高い状態(一般的には潜水禁忌)とされています7)。しかし、その後の医学研究を踏まえ、海外では糖尿病患者も条件付きでダイビングは許可との方向となり、Recreational Diving Medical Screening Systemでもその考え方を踏襲しています2)

つまり、薬の使用が直ちに「潜水適性無し」とは判断されず、以下の条件でダイビングが許可されます。

  • ① 18歳以上
  • ② 経口血糖降下剤使用後3か月、インシュリン使用後1年経過していること
  • ③ 意識消失を伴う低血糖発作の経験が無いこと
  • ④ 少なくても直近の1年の間に他人の助けを必要とする低血糖発作、高血糖発作がないこと
  • ⑤ 重大な合併症が無いこと

さらに、ダイビングは深度30m、60分以内、無減圧潜水、ケーブダイビングでないこと等とされ、ダイビング当日の血糖値基準なども定められています8)

高血圧

DAN Japanガイドラインでは、血圧が正常にコントロールされており、十分に運動能力がある場合には、比較的危険性が低い(相対的に危険な状態)と評価しています7)
高血圧が持続した場合は心肥大となり冠予備力が低下し、そこに負荷が加わることにより心不全、虚血性心疾患を引き起こす可能性があります。
ダイビング中は、血液の体の中心部へのシフト、運動、特に冷水では末梢血管の収縮、より血圧が上昇し、心血管イベントが起こるリスクが指摘されており、日常の血圧管理はより厳密に行うべきとの専門家の見解もあります9,10)。本連載の第1回ダイバー健康診断でも触れましたが、北米からの報告では100万ダイブで1.8人の割合で死亡事故が発生しており11)、50歳以上の死亡事故の1/3は心疾患が原因とされています12)。最近では、高血圧は浸水性肺水腫のリスクファクターであることも指摘されています10)
高血圧で使用される代表的な薬について、2019年の総説論文10)の内容をまとめます。(表1)

表1 文献10の降圧剤に関する記載内容の著者まとめ

ACE阻害薬 乾性の刺激性の咳(副作用)がダイビング時に問題となる可能性があります。他にACE阻害薬固有の問題点は特に指摘できません。
ARB ARB固有の問題点は特に指摘できません。
Ca拮抗薬 副作用として起立性低血圧があります。ダイビング時にはエキジット時に血液シフトが元に戻ることと相まっての急激な血圧低下が問題となるかもしれません。よって、内服しているダイバーは水中よりゆっくりエキジットすることが勧められます。他に固有の問題点は特に指摘できません。
利尿薬 脱水が生じ、減圧症発症のリスクを高めることが懸念されます。特に熱帯地方への旅行に伴うダイビングでリスクが高まる可能性があります。
β遮断薬 心拍数を下げるので運動耐性を下げる可能性があります。肺機能異常が生じる可能性があります。エビデンスは明らかではないですが、浸水性肺水腫のリスクである可能性があります。

以上から、文献10ではダイビング時に望ましい第一選択薬としてACE阻害薬及びARBとし、カルシウム拮抗薬については起立性低血圧に注意とし、利尿薬とβ遮断薬は基本的には望ましくないと結論しています。

てんかん

水中でのてんかん発作は致命的になりうるので、発作の既往がある場合(小児の熱性痙攣を除く)は、DAN Japanガイドラインでは潜水適性無しとしています7)。ただし、別の見解もあり、英国のUKDMCでは、ダイビングするにあたり、少なくても5年間、投薬無しで発作も無い事を求めています13)。先に、ダイビングは運転操作に準ずる注意力が必要と述べましたが、参考までに、日本では、運転に支障が生じるおそれのある発作が2年間無い場合(薬の服用可)、てんかん患者も運転免許が取得できます。

マラリア

抗マラリア薬ですが、文献14によれば、アトバコン/プログアニルとドキシサイクリンが最も安全な薬剤と思われるとされ、一方で、メフロキンは神経学的副作用の発生率が最も高いため使用は限定されるべきこと、クロロキンは高圧環境での安全性に難があり使用を避けることが推奨されています。

最後に

2回にわたり薬とダイビングについて解説しましたが、説明できたのはほんの一部の薬と傷病のみです。持病があり服薬中のダイバーは、ダイビングをするにあたり、まずは主治医とよく相談することをお勧めします。
主治医は必ずしもダイビングには詳しくないかもしれません。その場合はダイビングの特性についてよく説明した上で主治医の見解を聞くことが良いでしょう(遠隔地ですぐに医療機関にかかれない、水中での意識消失、痙攣は危険など)。場合によっては潜水医学の専門家とも相談することもお勧めします。

参考文献

  •   1. 小島泰史: ダイビングにおける服薬の問題. 日本高気圧環境・潜水医学会関東地方会誌 2014; 14: 41-47.
  •   2. Recreational Diving Medical Screening System
  •   3. Brown M, et al.: Pseudoephedrine for the prevention of barotitis media: a controlled clinical trial in underwater divers. Ann Emerg Med 1992; 21: 849-852.
  •   4. Koteng S, et al.: The effect of reduced peripheral circulation on formation of venous gas bubbles and decompression. Undersea Hyperb Med 1996; 23(suppl):38.
  •   5. Smerz RW: The relationship of decongestant use and risk of decompression sickness; a case-control study of Hawaiian scuba divers. Hawaii J Med Public Health 2014; 73: 61-65.
  •   6. UKDMC Medical Conditions: Sea Sickness Medication
  •   7. DANメディカルチェック/DANメディカルチェックガイドライン
  •   8. Pollock NW, et al.: Diabetes and recreational diving: guidelines for the future. Diving Hyperb Med 2006; 36: 29-34.
  •   9. 小泉章子: ダイバーの、エイジングにおける動脈硬化症予防と管理の重要性. 日本高気圧環境・潜水医学会関東地方会誌 2010; 10: 36-41.
  • 10. Westerweel PE, et al.: Diving with hypertension and antihypertensive drugs. Diving Hyperb Med 2020; 50: 49-53.
  • 11. Buzzacott P, et al.: Epidemiology of morbidity and mortality in US and Canadian recreational scuba diving. Public Health 2018; 155: 62–68.
  • 12. Denoble PJ ed.: Medical Examination of Diving Fatalities Symposium Proceedings. Divers Alert Network. 2015
  • 13. UKDMC Medical Conditions: Epilepsy
  • 14. Petersen K, et al.: Safety of antimalarial medications for use while scuba diving in malaria Endemic Regions. Trop Dis Travel Med Vaccines 2016; 2: 23.

小島泰史先生プロフィール

小島 泰史 (コジマ ヤスシ)

小島 泰史
(コジマ ヤスシ)

1997年にダイビングを始め、その後東京医科歯科大高気圧治療部で潜水医学を学び、専門医を取得。現在は同大学の高気圧治療部非常勤講師として、潜水障害患者の診療を行っている。専門である整形外科の知識を活かし、損害保険会社の顧問医として、医療事故などに関する医療コンサルを行っており、リスクに関する造詣も深い。元DAN Japan Medical Officer。現在、日本高気圧環境・潜水医学会において理事、広報委員会委員長、国際情報委員会委員長を務めている。UHMS、SPUMS、日本渡航医学会他、多数の学会に所属。
日本整形外科学会認定整形外科専門医。日本手外科学会認定手外科専門医。日本医師会認定産業医。日本高気圧環境・潜水医学会認定高気圧医学専門医。