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ダイバーなら知っておきたいサンゴのこと
第3回:サンゴ礁のでき方

ダイバーなら知っておきたいサンゴのこと

沖縄の島々では5~6月、九州・四国や紀伊半島では7~8月、サンゴの産卵の神秘的な様子が話題となりますが、サンゴって何でしょう?
サンゴやサンゴ礁(※)が地球の環境を守る大事な存在だということは今や小中学校でも学ぶのでご存じの方も多いでしょう。ダイバーなら知っておきたいサンゴのことを6回連載でお届けします。

※サンゴとサンゴ礁の違いは、簡単いうと生物か地形かの違いです。サンゴ礁は主に造礁サンゴが集まって積み重なり、形成されたものです。

※2023年10月現在の情報です

サンゴ礁とサンゴの違い

サンゴは種。サンゴ礁は岩礁

インターネット上ではよくサンゴとサンゴ礁を混同して使っている文章を見かけます。でも、サンゴ礁はサンゴがいくつも集まってできていますが、すべてのサンゴがサンゴ礁をつくれるわけではありません。2回目の連載で紹介しているように、サンゴ礁を形成できるのは“造礁サンゴ”と呼ばれる種類のサンゴだけです。

テーブルサンゴ(ミドリイシの仲間)の群落がどこまでも続く「サンゴ礁」

テーブルサンゴ(ミドリイシの仲間)の群落がどこまでも続く「サンゴ礁」
Photo by Marine Photo Library

コモンシコロサンゴは造礁サンゴで、ときには長さ10m以上の大群落を造ります

コモンシコロサンゴは造礁サンゴで、ときには長さ10m以上の大群落を造ります
Photo by Yukari Goto

ソフトコーラルは非造礁サンゴで、サンゴ礁になりません

ソフトコーラルは非造礁サンゴで、サンゴ礁になりません
Photo by Marine Photo Library

サンゴ礁はこうできる

ダーウィンの沈降説

では、サンゴ礁はどうしてできるのでしょう?
サンゴ礁の地形は、陸地とサンゴが接した「裾礁(きょしょう)」、陸地とサンゴ礁の間に水深数十mの礁湖(ラグーン)を持つ「堡礁(ほしょう)」、サンゴ礁が花輪のようにつながった「環礁(かんしょう)」の3つに分けられます。
これらの島々がどのようにできていったかを最初に考察したのが、『種の起源』の進化論で知られるダーウィンです。彼はその成り立ちを次のように説明しています。

最初に裾礁が生まれる

最初に裾礁が生まれる

裾礁 Fringing Reef
海洋の真ん中に火山島ができると、その周囲を取り囲むようにサンゴ礁が形成されます。形成されたサンゴ礁は、徐々に外側へと広がっていきます

沖縄の多くの島々が裾礁タイプ。写真はケラマ諸島の阿嘉島、座間味島周辺

沖縄の多くの島々が裾礁タイプ。写真はケラマ諸島の阿嘉島、座間味島周辺
Photo by Yukari Goto

まず何億年も前に熱帯の海底に火山島ができました。火山島は成長するにつれて隆起していきます。するとその周辺の水深が浅くなり、島の周囲にサンゴが生息するようになり、長い年月をかけて島の周囲を縁どるようにサンゴ礁をつくりあげたのです。島の裾野にできたため「裾礁」、英語ではFringing Reefと名付けられました。
裾礁はサンゴ礁の中で最初につくられるものではありますが、現在裾礁であるということは、サンゴ礁の中では地球上で最も新しいサンゴ礁といえます。

グレートバリアリーフに代表される「堡礁」

グレートバリアリーフに代表される「堡礁」

堡礁 Barrier Reef
中央部の火山島はサンゴ礁とともに沈降していきますが、サンゴ礁はどんどん積み重なっていくため、サンゴ礁だけがもとの位置に取り残され、ラグーンが形成されます

パラオのロックアイランド群を取り巻くバリアリーフ

パラオのロックアイランド群を取り巻くバリアリーフ
Photo by Marine Photo Library

裾礁ができてからさらに年月を経るうちに火山島は地盤沈下や風化などの理由で始めます。一方、サンゴは土砂や淡水の流れ込む陸側はあまり活発に育成せず、逆に外洋の波が洗う海側では活発に育成するため、サンゴ礁は上へ上へ、外へ外へと生育を続けます。すると島とサンゴ礁の間に浅い海が取り残され、礁湖(ラグーン)を形成します。この状態のサンゴ礁が「堡礁」、英語でBarrier Reefです。バリアリーフと言えば、そう、世界最大のグレートバリアリーフ(オーストラリア)がありますよね。まさにGBRは堡礁の代表的な存在です。

でも他にもバリアリーフで世界的に有名なのは、チューク、ベリーズ、ニューカレドニアの本島グランドテール島を取り巻くサンゴ礁です(この3つはいずれも「世界で2番目に大きい」と称していますが、果たして!?)。
また、ダイバーにおなじみのパラオも、本島バベルダオブ島からペリリュー島にかけて巨大なバリアリーフに囲まれています。

海にできた真珠のネックレス「環礁」

海にできた真珠のネックレス「環礁」

環礁 Atoll
島が完全に沈みきると、サンゴ礁だけがリング状に取り残されます。中央部は巨大なラグーン。サンゴの切れ目がチャネル(水路、水道)と呼ばれます。
※チャネルは裾礁にも堡礁にもあります。

輪のようなサンゴ礁がいくつも連なり、さらに大きな輪になっているのが「環礁」です

輪のようなサンゴ礁がいくつも連なり、さらに大きな輪になっているのが「環礁」です
Photo by Marine Photo Library

堡礁ができた後、さらに時間を経ると島が沈降し、海面下に水没し、サンゴ礁だけが残った状態になります。残されたサンゴ礁は輪のような状態、つまり「環礁」、英語ではAtollになります。
Atollの語源はモルディブのディベヒ語から来ているように、環礁といえばモルディブが有名です。ほかにもタヒチのランギロアやファカラバなどツアモツ諸島が有名ですね。

サンゴ礁が形成される順番としては最も新しい環礁ですが、現在も環礁であるということは、地球上では現在、最も古いサンゴ礁が残されているという、貴重な状態といえます。
あるデータによると、標高2mのサンゴの島は、5000万年以上の時間をかけてできた、高さ100m分のサンゴがくだけて積み重なってできたものだそうです。

ちなみに、ダーウィンのこの説は、その後マーシャル諸島(ここも環礁の島々が集まっている国として有名)で行われた大規模なボーリング調査の結果、実際に火山島をつくっていた火山岩の上に1400mもの厚さでサンゴ礁の石灰岩が積み重なっていることが判明し、証明されています。

サンゴ礁の役割

島を取り巻くハウスリーフ。外海との間にあるリーフ(サンゴ礁)が防波堤の役割を果たしています

島を取り巻くハウスリーフ。外海との間にあるリーフ(サンゴ礁)が防波堤の役割を果たしています
Photo by Marine Photo Library

津波や大波の被害を極力抑える防波堤機能

2004年12月に起きたインド洋大地震ではインドネシアの震源から遠いモルディブにも数時間後に津波がやってきました。最大標高2mちょっとという環礁の島々、モルディブが津波の被害に遭ったら大変なことになります。実際島によっては水上コテージが破壊したり、島全体を波に洗われたりしましたが、死者・行方不明者はなく、人的被害はありませんでした。多くの研究者がこの時、モルディブで人的被害がなかったのは、サンゴ礁が最大の防波堤になったためだと言っています。
このように、サンゴ礁は人間や島々を災害から守る貴重な存在といえます。

地球上に酸素を供給

西表島の船浦港のすぐそばに広がるサンゴ礁

西表島の船浦港のすぐそばに広がるサンゴ礁
Photo by Marine Photo Library

サンゴは二酸化炭素を取り込み酸素を排出します。具体的にはサンゴに共生している褐虫藻が二酸化炭素を吸収、酸素を排出しているわけです。サンゴ礁が「海の森」と呼ばれるのは、サンゴの集合体がこのはたらきをしているためです。陸のグリーンカーボンに対してサンゴ礁がブルーカーボンと呼ばれるのもこのためです。地球の表面積の7割を占める海。サンゴ礁域はその半分以下とはいえ、陸よりもサンゴ礁のほうが大量に二酸化炭素を吸収し、大量に酸素を供給するため、とても貴重な存在として注目されているのです。
さらに、サンゴ礁は二酸化炭素による地球温暖化を防ぐための、大切な救世主なのです。

サンゴ礁は海のオアシス

サンゴ礁の隙間に着底したイソギンチャクに、ハマクマノミが

サンゴ礁の隙間に着底したイソギンチャクに、ハマクマノミが
Photo by Marine Photo Library

大小のスズメダイがサンゴの隙間を隠れ家に使っています
Movie by Yukari Goto

では水中でのサンゴ礁の役割はどうなのでしょう?
海中ではサンゴ礁やサンゴが群生する根は魚や生きものたちが棲んだり隠れたりするのに格好の場所となっています。サンゴの餌でもあるプランクトンが、彼らにとっても餌になっています。また、サンゴに共生する褐虫藻は二酸化炭素を吸収して酸素を排出しますが、酸素以外にも炭水化物やたんぱく質などの有機物をス繰り出しているといわれます。この有機物がサンゴにすむ生き物たちにとっての格好の餌となります。
さらに、サンゴ礁やサンゴの根に棲んだり隠れたりしている生き物たちを捕食する中型魚、大型魚も回ってきます。まさにサンゴ礁は「海のオアシス」といえます。

実際、サンゴ礁の周辺ではたくさんの魚や生きものが見られますが、あるデータでは、6万種もの生物がサンゴ礁で観察されているといわれているのです。サンゴ礁にはたくさんの隙間がありますから、さもありなんという感じですが、これだけ多い種類の生物が!?と驚かざるを得ませんね。しかも1種につき何十、何百と集まっている魚もいますから、サンゴ礁を頼りにしている生物の多さは天文学的数字になるといえます。

コーラルイーターにも恵みを提供

サンゴをガリガリかじりながら泳ぎ回ることで有名なカンムリブダイ

サンゴをガリガリかじりながら泳ぎ回ることで有名なカンムリブダイ
Photo by Marine Photo Library

サンゴ礁だけに限りませんが、海の生き物の中にはサンゴを餌にする生き物“コーラルイーター”もいます。
チョウチョウウオの仲間たち、カンムリブダイをはじめとするブダイの仲間たち、そしてウミガメなどなど、サンゴだけではなく、海藻やサンゴの間に棲む生き物を食べています。何でも食べるという種類の魚もいます。
サンゴ単体よりサンゴ礁のほうが面積は大きいので、コーラルイーターもたくさん周辺に生息しています。
コーラルイーターがいてもサンゴやサンゴ礁がなくならないのは、自然界のバランスが保たれているからにほかなりません。
なお、石灰質のサンゴを食べたブダイたちはよく白煙を立てながら糞をしていますが、その糞をゴカイやナマコが食べ、細かい白砂ができます。白砂はサンゴのかけらが波などによってくだけてできたものもありますが、こうしたものが特に南の島では美しいホワイトビーチになっているのです。

サンゴ礁が地球上で人間ばかりでなくさまざまな生き物にとっても必要不可欠な重要な存在であることがわかりますね。
私たちダイバーを楽しませてくれるサンゴについて、さらに紹介していきます。
次回をお楽しみに。

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ライター/後藤 ゆかり(MDWデスク)