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第18回 コバンザメ~「刺身のつま」に非ず!

第18回 コバンザメ~「刺身のつま」に非ず!

前回「寄り添う者たち」で紹介しなかったコバンザメ。
マンタやジンベエザメといった大物の体にくっついている例のあの魚なのだが、ダイバーにとっては「刺身のつま」的な存在らしく話題にのぼることはまずない。
たまに名前が出るときは、大物の「家来」であったり「従者」だったり、果ては「邪魔者」扱いだ。
あんまり不憫なので、ちょっと取り上げてみました。

●構成・文/山本真紀(2016年4月制作)

コバンザメの日常風景

「大きな魚やウミガメにまとわりつく細長い魚」、それがコバンザメのイメージ。実際、ダイバーが見かけるコバンザメはいつもこんな感じだ。
●写真上/モアルボアル(セブ島)で出会ったマンタ。8尾のコバンザメが付いている。頭部には「吸盤」があり、それでマンタの腹部に密着しているのだ。
●写真左/カリブ海の巨大ハタ、ゴリアテ・グルーパーとのツーショット。少し離れて併泳しているので、背中(特に上半身)が平たくなっていることがよくわかる。他の魚にピッタリ密着するための形態だろう。

親子なんかじゃありません

●メジロザメの仲間(もしかするとガラパゴスザメかもしれない)に寄り添う小さなコバンザメ。こういうシーンを見ると、一瞬「もしや親子?」なんて思ってしまう人がいるかもしれないが、もちろんそれは大きな勘違いで、両者は全然別物。
●コバンザメは名前に「サメ」と付いているが、軟骨魚(エイ・サメ類)ではなく硬骨魚(一般の魚類)。スズキ目コバンザメ科というグループに属している。細長い体形という共通点はあるものの、サメの特徴である5対の䚡孔もないし、サメ肌でもない。

頭のコレが「小判」です

●コバンザメはホストを離れ自由に活動することがある。写真は海底に寝転がっていたコバンザメの頭部を撮影したもの。楕円形の妙なものは背ビレが変化して生じた「吸盤」。この形状が江戸時代の貨幣、小判に似ていることが和名の由来で、これを使ってマンタやハタなど大きな魚にピッタリと吸着している。
●「吸盤」の吸着力はかなり強く、尾ビレを持って引っ張っても剥がれない。が、逆方向に引っ張ると簡単にはがれる。つまり、「だからホストが猛スピードで泳いでいるときも大丈夫」という理屈。

知られざる不思議な生態

コバンザメが大物に付く理由には移動が楽、餌のおこぼれに与る等が挙げられる。また、マンタの総排出孔やマンボウの䚡孔に潜り込む不思議な生態も知られており、ホストの排泄物や寄生虫を食べているのかも。
●写真左/白砂の海底一面にコバンザメ。これはいったいどういうことか? モルディブのナイトダイビングで撮影されたシーンだが、コバンザメは夜間こうして休むのか? でも、「地球の海フォトコンテスト2016」地球環境部門グランプリ作品を見ると、夜でもジンベエザメにまとわりついているのだが・・・。謎だ。

世界に8種類もいるんだゼ!

気安くアレもコレもコバンザメと呼んでいるけど、ソレはホントにコバンザメ? だって、コバンザメ科は世界に8種もいるんだもん。
●最もポピュラーな種類は、もちろん形容詞の付かないコバンザメ(学名Echeneis naucrates)。そのほかスジコバン、シロコバン、オオコバン、クロコバン、ヒシコバン、ナガコバン、ヒナコバンがいる。
●写真左/東部太平洋のマンタには、丸太のようなコバンザメがよく付いている。どうやらコレはナガコバン(学名Remora remora)っぽい。違ったらゴメン。

十把一絡げにするんじゃねえ!

タイ・タオ島で撮影された立派なジンベエザメ様。これまたウジャウジャとコバンザメがたくさん付いている。でも、これがすべてコバンザメとは限らない。少なくても、コバンザメ以外に2種類の魚が潜んでいるのだ。

●ジンベエザメの前方、斜め下あたりに注目(→)。少し離れて泳ぐ銀色の小さな魚が何尾かチラチラと見えるが、これはアジの仲間だ。
次に、腹部のウジャウジャ集まっている付近に注目してみると、この中にもコバンザメらしからぬ魚が見える。ちょっと拡大してみたのが写真右。

●一番下にいるちょっと黒っぽい魚。頭部に吸盤がないので明らかにコバンザメの仲間ではない。正体はスギで、自由生活者だが、しばしばジンベエザメやマンタなど大きな魚に併泳することもよくある。ちなみに結構おいしい魚で、「黒カンパチ」という商品名で売られていることもあり、沖縄や東南アジアでは養殖もされている。

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