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海のいきもの
第21回 ドリーとその仲間たち

第21回 ドリーとその仲間たち

アニメ映画『ファインディング・ニモ』(2003/米)でニモを助けるおとぼけキャラとして人気を博し、
この夏は『ファインディング・ドリー』(2016/米)で堂々と主役をはる、それがドリー。
ナンヨウハギのメスという設定だ。
というわけで、今回はドリーとその仲間たちのことを紹介。
「仲間たち」といっても、ニモやマーリンなどは登場しませんけれど。●構成・文/山本真紀

ドリーの種族、それはナンヨウハギ

ナンヨウハギ
「南洋」という昭和っぽいネーミングも、このデザインを見ると妙に納得してしまうほどトロピカル。英名パレットサージョンフィッシュ(Palette surgeonfish)のパレットは絵の具を調合するときに使う板のことで、こちらも名前のイメージにピッタリ。この派手な模様の意味はよくわかっていないが、ポスターカラー効果(同種または他種に対する何らかのアピール。サンゴ礁の魚類でよく見られる)ではないかと思われる。分布/南日本の太平洋岸、琉球列島、小笠原諸島;インド-太平洋

幼魚と成魚でどこが違う?

ナンヨウハギは幼少のころから成魚そっくりで派手な模様なのだが、よ~く観察するとその違いが見えてくる。さて、それはどこでしょう? 下記の写真は幼魚(左)と成魚(右)です。

幼いナンヨウハギ
写真の幼魚たちのサイズは2~3cmといったところ。一緒に写っている白黒の魚は、フタスジリュウキュウスズメダイの幼魚。この写真からわかるように幼魚は成魚と異なり、浅い枝状サンゴの周辺に生息している。10cm弱くらいまではサンゴに依存し、危険を感じたときや夜間などは隙間に潜り込んでいる。

成長したナンヨウハギ
体のサイズは20~25cm。穏やかなリーフ内から潮通しのいい外縁やチャネル、沖の隠れ根などに生息場所が変わる(バックに写る黒い魚は、同様の環境で暮らすアカモンガラ)。また、幼魚では途切れていた体側の黒い模様が、成魚では完全に繋がる(英名パレットの由来。OKサインにも見える)。雌雄の違いは特にない。

ドリーの仲間というかニザダイ科のこと

ナンヨウハギはニザダイ科ナンヨウハギ属(1属1種)に分類されているのだが、ニザダイ科は世界の海に他にも5属80種以上が生息している。そこで、ドリーの仲間(ニザダイ科)についてザックリ紹介。

ニザダイ科の特徴
サンゴ礁や沿岸の岩礁域で見られ、大きな特徴は尾の付け根に骨質板または棘を持つこと。写真は南日本で普通に見られる磯魚で、標準和名ニザダイ。黒く見える部分が骨質板で、ここから釣り人には「三の字」とも呼ばれる(ホントは4~5個あるのだが、特に3個だけよく目立つ)。地味なのでダイバーはスルーしがちだが、近場で潜るときはじっくり見てみよう。大きさ15~25cmで、分布は南日本、伊豆諸島、朝鮮半島、台湾など。大きな群れをつくると結構壮観。

英名の由来
写真はサザナミトサカハギで、尾柄部に2つの鋭い棘状骨質板がある。こうした特徴からニザダイ科は英語圏でSurgeonfish(外科医の魚)、Sawtail(のこぎりの尾)などと呼ばれる。また、この骨質板の状況によってニザダイ科は下記のグループに分けられる。
①折り畳み可能な1本の棘がある:クロハギ属、サザナミハギ属、ナンヨウハギ属、ヒレナガハギ属
②固着性の骨質板が3~6個ある:ニザダイ属
③固着性の骨質板が1~2個ある:テングハギ属

何を食べているのかといえば・・・・

ニザダイ科は世界に80種以上が知られおり、付着藻類を食べる種類が多い。写真はパウダーブルーサージョンフィッシュが集団で食事をしているところ。大群で泳ぎ回りながら、ときどきガシガシガシッとガレキサンゴや岩を突っついて藻類を囓り取り、再び移動を繰り返す。また、付着藻類とともに海底の砂ごと有機物を食べる種類や動物性プランクトンを捕食する種類もいる。
ナンヨウハギの場合、自然界では動物プランクトンや付着藻類を食べる様子が観察されている。飼育下ではオキアミやレタス、根菜類などを与えるそうだ。

覚えやすいドリーの仲間たち

ダイバーがよく見るニザダイ科の仲間の中で、模様や形態が特徴的で覚えやすい種類を集めてみた。あまり注目されることのないグループだが、ここに紹介した種類くらいは知っておいてソンはない。

サザナミトサカハギ
沖合やサンゴ礁外縁の表層~中層で群れている。写真はオスで、メスは茶色(上の記事/「英名の由来」を参照)。大きさ30~45cmとなる。分布/南日本の太平洋岸、琉球列島、小笠原諸島;インド-太平洋

ツマリテングハギ
サンゴ礁の潮通しのいい環境を好む。額に角を持つニザダイ科には、ほかにもヒメテングハギやオニテングハギなどがいる。大きさ25~35cm。分布/南日本の太平洋岸、伊豆・小笠原諸島、琉球列島;インド-太平洋

ナミダクロハギ
目の下の模様が和名の由来。この模様で涙を連想するとは命名者は『巨人の星』ファンかも。よく似たメガネクロハギという種類もいる。大きさ15~25cm。分布/伊豆・小笠原諸島、琉球列島;西部太平洋の熱帯域

ニジハギ
リーフエッジなど波当たりの強い浅場で素早く泳ぎ回る。普通種だが、生息環境のせいかダイバーには知名度が低いかも。大きさ20~30cm。分布/南日本の太平洋岸、伊豆・小笠原諸島、琉球列島;インド-太平洋

アカツキハギ
波当たりの強い浅所で見られ、分布は広いが日本では稀種。幼魚には尾柄部のオレンジの斑紋がない。英名アキレスタング(Achilles tang)。大きさ15~25cm。分布/沖縄島、南大東島、南鳥島、沖ノ鳥島;汎太平洋

パウダーブルーサージョンフィッシュ
モルディブで最も派手なニザダイ科で、ハウスリーフ外縁などでも見られる普通種。しばしば大群で摂餌する。大きさ10~15cm。分布/アフリカ東部沿岸からモルディブ~アンダマン海~クリスマス島;インド洋

ヒレナガハギ
写真は成魚で、大きなヒレを畳んで泳ぐところ。内湾の枝状サンゴ周辺ではよく幼魚(3~8cm)が見られ、水中モデルとして人気。成魚は20~30cm。分布/南日本の太平洋岸、琉球列島、小笠原諸島;インド-太平洋

シマハギ
サンゴ礁の浅場で大きな群れをつくり、集団で付着藻類を摂餌するシーンがよく見られる。大きさ15~25cmとなる。分布/南日本の太平洋岸、伊豆・小笠原諸島、琉球列島;インド-汎太平洋、東部大西洋の熱帯域

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